UnLovers – [You can say anything!]

アナタに出会うために、ワタシは生まれてきた。セカイの詩

あの日々をもう一度
  • xxxx年 4月 6日

今日から2年生。うーくんは3年生。
うーくんは今年で卒業……。それまでに、今年こそ、ちゃんと好きって言わなきゃ。
うーくんに、好きって言って、もっともっとなかよくなって、昔の思い出もお話して……。
早く、そんな関係になりたいな。


  • xxxx年 4月 23日

うーくんのことをいつも教えてくれる碧せんぱいが、「好きな人と仲良くなれる」おまじないを教えてくれた。
教えてくれた、けど……。ちょっと、こわい。
碧せんぱいのことはだいすきだけど、おまじないは、なんだか、こわい。
それに、おまじないなんてなくても、わたしはうーくんのこと、だいすきだから。
きっと、うーくんもわたしのことがすき……、なはず。
そうでないと……やだ。
でも……碧せんぱい、おまじないにはまりすぎてるみたいで、すこし、心配。
うーくんの言う事なら碧せんぱいも聞いてくれるはずだし、言ってみようかな……、迷惑、かな……。


  • xxxx年 5月 10日

碧せんぱいが私とおそろいのヘアピン見つけたって自慢してた。
でも、なんだかへんなかんじ。
わたしのヘアピンはうーくんにもらったもの。
碧せんぱいも、5日が誕生日だったはずだから……うーくんにもらったのかな。
でも、連休は部活でうーくんとずっと一緒にいたし……、日曜日、とか?
わからない、けど、碧せんぱいのこと、だいすきだけど、きらいになりそう。
わたしのうーくんが、とられちゃいそう。


  • xxxx年 5月30日

【今日のうーくん】
碧せんぱいとお出かけしてた。ずるい。
13時にファミレスでごはんを食べて、お洋服を見たあとゲームセンターで遊んで、駅前のカフェに寄って帰ってきたのは19時。
碧せんぱいはうーくんと幼馴染だってきいた。
わたしだって、小さい頃はずっと一緒だったはずなのに。
ずるい。
途中でまざればよかったのかな。でもうーくんにきらわれたくないな。
でもでも、うーくんはとられたくない。うーくんはわたしの。これからもずっと一緒。
碧せんぱいよりさきに、ちゃんと伝えなきゃ。

あなたをずっと
  • xxxx年 6月 5日

「――で、その子供の正体はなんだったのか?ってもやもやしたまま終わるんだけど……」
「……」『そうなんですね』

今日も部活が終わり、いつもどおりの帰り道。隣を歩く音心は、終始元気のないままだった。
ボードに書くのもゆっくりで、筆跡もどことなく元気がない。
普段より歩幅も狭いように感じる。空気も重い。
普段のような居心地の良さは……ない。
帰りに誘ったときは、

『はい !よろ しくお ねがい しま す!』

――といった感じで、たまにからかうときのような動揺の仕方をしていたものの……。

「……音心、えっと……、もう一度聞くけど、なにかあった?」
「……っ、……っ!」『ほ んと うにな んで もな い で すっ !』

なにか、聞くと「なんでもない」としか返ってこない。
明らかに何かあったような反応をしているのに……。本人は表情に出ていることに気づいていないのかもしれない。
なんとか最近みた映画の話で場をつないでいたものの……普段分かれる道までがやけに遠く感じる。
いや……それとも、本当に遠いのか……?

「えっ……と、今日はこの辺で……。ちょっと寄らなきゃいけないところがあるからさ」
「っ!」

相談に乗れるなら乗ってあげたいところ、だが……。
おそらく同じ答えしか返ってこないだろうし、音心には悪いけど、嘘をついてしまった。
実質音心のお世話係となっている碧なら、自分なんかより音心の気持ちを汲めるだろうし……。
……そうだ、碧に連絡をしよう。それが一番いい。
「音心の様子が変」「心当たりはないか」「よければ相談に乗ってやれ」……と、ちょっと忙しそうな雰囲気を醸し出しつつ、メッセージを送る。
あとは適当に時間を潰しつつ帰路に――

「っ、っ!っ!」『せ んぱい まっ て くださ い !』
「お、落ち着いて、落ち着いて」
「……!っ、っ!」

どうしたのか、突然音心が暴れだした――暴れると言っても、服の裾をぎゅうぎゅう引っ張るだけだ――が、

「えっと、ど、どうした?」
「……」『せ んぱい まっ て くださ い !』
「……」

何か言うと、さっき書いたままのホワイトボードで顔を隠しながら、黙ってしまう。裾はしっかり握ったままだ。
……碧に全部丸投げするつもりだったが……仕方ない。自分じゃないとだめみたいだ……。

 

「――と、はい、音心はオレンジジュース……でよかったよね?」
「……」『 』

「予定をずらしてもらった」と適当なことを言って、適当なファミレスにお茶をしにきた。
とはいえ、ホワイトボードはさっきから真っ白なままだ。……使い古した汚れはあるが。
音心の力になれるなら、嬉しくないことはない、が……この沈黙をなんとかできるほど、自分も対人関係に自信はない。

「で……、ええと……何か相談?」
「……」
「……なにか、嫌なことしちゃった、とか……?」
「……っ」

うつむいたまま、ぶんぶんと首を振る。
今にも泣き出しそうな顔をしていて……、いじめているようで気分が悪い。

「うーん……、あ、話しづらかったら碧とか呼ぶ?女同士のほうが話やすいとか――」
「……っ!」

――碧の名前を出した途端、一瞬目を見開いたあと、すごい剣幕でホワイトボードに書きなぐり始めた。

「碧と……、喧嘩でもしたのか?そういうことなら幼馴染である自分がなにか力に――」
「っ!」『せん ぱい は あお せ ん ぱいのこと が すき なんで すか ?』
「――」

――どういうことだ?
普段のような、見やすくきれいな字ではない、どちらかといえばからかった時のような、その時よりもより歪んだ字で、「碧のことが好きか」と書かれている。
書いてあることはわかる。意味もわかる。意図は……わからない。

「――それは、どういう」
「っ!っ!」『せん ぱい は あお せ ん ぱいのこと が すき なんで すか ?』
「えっ……、っと……」

涙目のままにらみつけるようにしながら、どん、どんとホワイトボードを叩いて文字を強調する。

「碧は……、幼馴染だから、そういうのでは……」
「……っ!」

何を話したいのかわからないまま、音心はホワイトボードをなぐり書きして――

「っ」『わたしは、幼馴染じゃないんですか?』
「――え?」
「……っ!っ!」『わ たし の こ と は 思 い出して く れな い んで すか っ !う ー く んっ!』

――幼馴染?
自分の幼馴染は碧だけだ。保育園の頃からの腐れ縁で、家もそこそこ近所で……。
自分は引っ越したこともないし、昔仲がよかったけれど巡り巡って~なんて話もない。
誰かと……勘違い、してるのか?

「ええ、と、……何か、勘違いしてないか?僕は……」
「……。……っ、っ」『…… 昔 すぎ て、 覚 え て ない だけ で すっ 。 た ぶん ……。わたし た ちは ずっ と、ず ぅ ーっ と 仲 が 良かっ た は ず です か ら』
「だから、僕は音心と幼馴染だったことは――」
「……っ!っ!」『わ た し……ずっと、す きで し た 。 うーくん のこと 。 これ か らも 、 ず っと……』
「えっ、と……」

鼻をすすって、涙をぼろぼろ流しながら文字でまくしたてられる。
声は出ていないはずなのに、思い切り怒鳴られているような、そんな迫力を感じて、思わず声が詰まってしまう。

「っ!……っ」『うー く ん 、 思い出 しま し た か …… ?ずぅ ー っと、 一 緒に い て、朝 か ら夜 ま で遊 んで い て…… 、それでも、うー く んは 突然引っ越 しち ゃ って……、また 会 おうねっ て、約 束 して ……』

――自分ではない誰かへの愛をまくしたてられ、ひどくめまいがする。
いままでずっとこの娘は、自分を見ているようで見ていなかった?
自分を通して、自分に似た誰かを見ていた?
……悲しいような、悔しいような。複雑な感情を持て余している間も、音心は音心の愛している”誰か”への文字を綴り続ける。

『 わた しは 、 せん ぱいのこと を「 うー く ん」って呼 ん で …… 、 う ー くん は 、わ た し の こと を 「ののちゃん」 っ て呼ん で……』
『こ の ぬい ぐる み……は 、覚 え てい ま すか?覚え て ……ない 、で すか ?』
『 これは 、 う ー くん が プレ ゼン ト し てくれて…… 、ずっとず っ と 、肌 身は なさず、 大事 に 持 って い た んですよ !』

自分が答えに困っている間も、タガが外れたように「うーくん」との思い出を綴り続けている。
……ここまで想いが強いと、どう返せばいいかわからない。どうすればいい……。
「うーくん」の振りをして騙すのは……簡単だ。少なくとも、彼女相手なら。
でも、その嘘は……彼女のためにはならない。

――音心に、事実を伝えなくては。

「――音心」
「……っ!っ!!」『はい!うーくん……!やっと、思い出しましたか?』
「僕は……「うーくん」ではないよ。……きっと、勘違いだ」
「……っ、っ!」『うーくん……まだ、思い出せないですか?ならもっと思い出を――』

音心のペンが宙を舞う。ひどく動揺した表情でこちらを見つめる。
――少々手荒だが、ホワイトボードを取り上げて、しっかりと続ける。

「逃げずにちゃんと聞いてくれ……。ぼくは「うーくん」じゃないし、引っ越したこともない。……音心みたいな、幼馴染はいない」
「……っ!!……っ」
「明らかに……勘違いだ。……ごめん。傷つけるようだけど、本当のことだから……」
「……っ」

――音心は、放心したようにこちらを見つめたあと……泣きながら、荷物も持たずに外へ飛び出していった。


せんぱいへ。

ごめんなさい。
わたしは……ずっと、うーくんだとおもって、あなたと話をしていました。
それが、ひとつめの、ごめんなさい。
ふたつめは……、あなたの言っていたことを、受け入れることができないことへの、ごめんなさい。
うーくんじゃないのなら、わたしは、どうにもできないことへの、ごめんなさい。
たくさん迷惑をかけたことへの、ごめんなさい。

うーくんへ。

ごめんね。約束を守れなくて。
たぶん……、もう会えないんだよね。
いっぱい知らない人に迷惑をかけちゃって、悪いことしちゃったから。
カミさまはきっと、ゆるしてくれないよね。
ごめんね。


音心の家へ荷物を届ける。……家の場所は、碧に教えてもらった。

『全然メッセージ気づかなかった!音心ちゃんどうかしたの?』
『まあちょっと色々あって……それは今度話すから、家の場所教えてもらえると助かる。忘れ物を届けたくて』
『えー?まあアンタなら大丈夫だろうけど……ストーカーみたいなことはしないでよねぇ?』

……碧の冗談には、返事をする気になれなかった。
音心は祖母と二人暮らしのようで、さすがにあの音心を見たからか、多少の警戒はあったものの話を聞いてくれた。
……素直に事実を伝えると、ため息をついて音心の過去について話をしてくれた。

音心は昔両親と三人暮らしだった。共働きでほとんど顔を合わせることがない家庭で、育児放棄に近い状態であったらしい。
祖母が定期的にお世話をしていたものの、やはり寂しそうな顔を見せることが多かったようだ。
そんな中隣に引っ越してきたのが「うーくん」。
毎日のように一緒に遊んで、その両親とも仲良くしてもらい、ご飯までご馳走してもらうことも少なくなかった。
音心はみるみる元気になり、笑顔を見せるようになった。
だが……、「うーくん」の家族は転勤の多い仕事をしていたようで、数ヶ月程度で引っ越してしまった。
それから――
音心は『「うーくん」に会いに行く』と言って家出を繰り返し……、交通事故にあって……。
怪我自体は大したことがなかったものの、音心の家庭の事情が公にされ、祖母に音心は引き取られることになった。
その時から、事故のショックか、あるいは「うーくん」に出会えないことへの精神的ダメージからか……声が出なくなったそうだ。

「心の弱い子だからそっとしておいてあげてほしい」と言われ、こんな話を聞いた手前無理に顔を合わせる事もできずに音心の家を出る。
音心が……立ち直れるといいのだが。

『再会』

あれから音心は「大きな校舎」には来ていない。
それは……仕方のないことだと思う。
碧にも話をすべきか迷っていたが……結局全部話してしまった。
碧も相当にショックを受けたようで、それからはずっと静かなままだ。
このまま悶々としているのもつらいものだが……、自分にできることは、何もない。

帰り道、一人での帰路に寂しさを感じる。
あれだけ楽しかった日常が……たった一言で崩れ去ったのを、強く実感していた。
未だに重い足を動かし、かつて音心と別れた道を通り、駅の改札を通って――

「……音心?」
「っ!」

駅のホームで思いがけない人と出くわした。
……とはいえ、掛ける言葉はなく。

「え……、と……」
「……っ」

音心はホワイトボードを持っていなかった。
その代わりに……、何か、ノートを眺めていた。

「……」
「……っ」

沈黙が流れる。音心もきっと何を話せばいいのかわからないのだろう。
……自分も、音心の中で折り合いがつくまで、そっとしておきたかったが。

~♪

「……っ」
「……と、の、乗らないと……」

自分の乗る電車のアナウンスが流れ、別れをつげ――る勇気も出ずに、無視をするように乗口に並――

「……っ!」
「!!」

――ぶ前に音心がノートを投げ捨てて駆け出し、黄色の線を超えてそのまま――


  • xxxx年 7月 19日

うーくん、さよなら。